パデルはテニスを脅かすのか? 既存秩序を揺るがす革命への深層ルポ
2000年代初頭以降、世界中のテニス連盟で繰り返し語られてきた言葉がある――パデルだ。長くマイナーな存在だったこのハイブリッドスポーツは、テニスとスカッシュの中間のような競技として、いまや「小さな黄色いボール」の強力なライバルにまで成長している。スペインでは国民的ラケットスポーツの座をテニスから奪い、フランスでも競技人口が記録的な伸びを見せ、プロツアーは次々と誕生している。
この急拡大を前に、ノバク・ジョコビッチを筆頭とするテニス界のスターたちは問いかける。テニスは、新たな波に飲み込まれないために、フォーマット、経済構造、イメージを再設計すべきなのか。脅威と好機が入り混じる中で、この特集では、静かに進行しながらもラケットスポーツの世界を長期的に作り替えかねない「静かな革命」のメカニズムを探る。
メキシコの庭から世界の表舞台へ
パデルの誕生は1960年代末にさかのぼり、その人気は右肩上がりを続けている。テニスに似たスポーツだが、より小さなコートで行われるこの競技は、1969年にメキシコ人のエンリケ・コルクエラによって考案された。
テニス愛好家だった彼は、アカプルコの自宅の庭にテニスコートを作りたかったが、十分なスペースがなかった。そこで、より小さいサイズ(20×10メートル)のコートを造り、ネットを張り、周囲を高さ3メートルの壁で囲んだのである。
1970年代に入ると、このスポーツはラテンアメリカ、とりわけスペインで人気を博すようになった。パデルはダブルスのみで行われ、独自の国際連盟を持つ。国によっては、フランスやイタリアのように、テニス連盟と同じ組織の中に統合されている場合もある。プロのパデルツアーは「Premier Padel」と「A1 Padel」の2つが存在する。
テニスに酷似したルールと「本物の脅威」?
公式戦におけるパデルのルールは次の通りだ。基本的な仕組みはテニスと同じで、6ゲーム先取で1セット、各ゲームは15、30、40のポイント制を採用し、40-40のデュースでは2ポイント連取した方がゲームを取る。テニスと同様、パデルも障がいのある人々に開かれており、車いすパデルのカテゴリーに参加することもできる。
2000年代初頭からの爆発的な発展によって、パデルは完全にステータスを変えた。なぜこの競技はプロスポーツの世界で存在感を増し、長期的にテニスにとって真の脅威と見なされるまでになったのか。
フランスにおけるパデルの現状
フランステニス連盟(FFT)は自らの公式サイトで、国内におけるパデルの成功を次の一文で総括している。「フランスでは、パデルは2000年代初頭から急速に発展しており、FFTが2014年に省庁からの委任を得て以来、競技者数は増加の一途をたどっています」。
2025年6月、同連盟はパデルに関する新たな数字を公表した。史上初めてフランスのパデル登録者数が10万人の大台を突破したのである。これは、2023/2024年に行われた前回調査(当時は7万500人)と比べて42.5%の増加にあたる。
急増するインフラ
2014年以降、フランス国内におけるパデルの発展を構造的に推進する役割を担ってきたFFTは、競技者数の増加だけでなく、愛好家のための施設整備の進展にも満足感を示している。実際、2025年6月17日に発表されたプレスリリースによると、フランスにおけるパデルコートの数は40%増加した。
フランス国内で利用可能なパデルコートは約3000面(正確には2917面)に達している。「FFTは、フランスにおけるパデルの発展を、さらなるコート建設と全国規模のトーナメント開催を通じて、今後も継続・強化していく方針です」と、フランステニス界を統括する同連盟は締めくくった。
プロレベルで存在感を増すフランスのパデル
プロの舞台では、ヨハン・ベルジュロンが男子フランス勢のトップに立つ。2025年11月24日時点で世界ランキング111位につけており、バスティアン・ブランケ(117位)、ディラン・ギシャール(119位)がそれに続く。女子では、最上位のフランス人選手を探すためにトップ30まで目を向ける必要がある。アリックス・コロンボンが27位、レア・ゴダリエが60位、カルラ・トゥリ―が79位に位置している。
さらに、フランスは2025年シーズンの「Premier Padel」、つまりこの競技の主要プロツアーの一部として、2大会を開催した。ボルドーが6月30日から7月6日まで、パリが9月8日から14日まで、それぞれトーナメントを主催している。
このツアーは年を追うごとに拡大を続けている。2023年時点では、フランス国内でPremier Padelの大会を開催していたのは首都パリのみだった。ボルドー大会がカレンダーに加わったのは翌2024年であり、その翌年には継続開催が決まった。
2026年、マルセイユに新トーナメント誕生
例年2月初旬、世界のトップ選手の一部はATP250大会「オープン13」に出場するためにマルセイユに集結してきた。だが2026年からは、同じ時期の主役の座を別のスポーツ――パデル――が奪うことになる。
「Ville de Marseille FIP Platinium Padel」は、2026年2月2日から6日まで、オープン13が30年以上にわたって開催されてきたフォセアンの街・マルセイユのパレ・デ・スポールで行われる。こうしてマルセイユは、パリ、ボルドーに続き、パデルのプロ大会を開催する3番目のフランスの都市となる。
想起すべきは、2025年8月末、将来のリヨン大会のディレクターであるティエリー・アシオンヌが、同大会を2026年からリヨン=デシーヌのLDLCアリーナに移転すると正式に認めたことだ。新会場はテニス仕様で約1万1000席を収容できる室内アリーナとなる。
一方マルセイユでは、老朽化が進むパレ・デ・スポールがATPの求めるスタンダードにそぐわなくなり、大会運営側は代替案を模索せざるを得なかった。「皆さんをお迎えし、唯一無二の感動を分かち合うのが待ちきれません。テニスは新たな次元へと踏み出そうとしています……そして物語は始まったばかりなのです」と、アシオンヌはリヨン移転の理由を説明していた。

伸びるフランス、しかし「大国」との差はまだ大きい
先ほども名前が出たカルラ・トゥリ―は、2025年10月に『Padel Magazine』のインタビューに応じ、フランスのパデルが着実に進歩している一方で、スペインのような国は依然としてはるか先を行っていると語った。「ランキング上では自分より上のスペイン人選手がいるけれど、フランス人であることは大きなアドバンテージです。
フランス市場は多くのブランドにとって魅力的で、パデルを中心にますます整備されてきています。現時点では、女子よりも男子の方が伸びしろが大きいと感じています。ただ、ヴィシーのような新しいクラブができたり、フランスでのパデルの一般化が進んでいるのは良い兆候です。
今後の世代は、テニスを経由せず、最初からパデルで育ってこなければなりません。そうして初めて差を埋められるでしょうし、それには時間がかかると思います。スペインは、たとえベストメンバーが揃っていなくても手が付けられません。
ヨーロッパ選手権で本当に苦戦させられるようになるまで、まだ5〜10年のアドバンテージがあると思います」と、かつてテニス選手だったトゥリ―は、パデルに転向した自身の経験を踏まえて語る。
スペインにおけるパデルの驚異的成功
フランスが世界有数の成長市場であるとはいえ、パデルの開発に関してスペインはすでに大きく先行している。今やイベリア半島では、男子テニス界にカルロス・アルカラスという超一流選手がいながらも、パデルがテニスを抜き「ナンバーワンのラケットスポーツ」の地位を確立しているのだ。
2025年11月14日、スペインパデル連盟は公式サイト上のプレスリリースで、パデル登録者数が11万1866人に達し、新記録を更新したと発表した。これは2015年(5万6263人)と比べてほぼ倍増にあたる。
いまやパデルは、登録者数が多いスポーツのトップ4に入っており、サッカー、バスケットボール、バレーボールのみに後れを取っている。一方テニスの登録者数は、2024年9月時点で9万6413人にとどまり、国民的スポーツのランキングでは8位に甘んじている。
誰にでも開かれた、身近なスポーツとしてのパデル
さらにスペインには、レギュラーあるいは時々プレーするパデル愛好家が600万人いるとされる。これは世界全体のパデル競技者の4分の1を占める規模だ。一方、フランスの定期的なパデルプレーヤーは、登録者数が増えているとはいえ、まだ50万人程度にとどまっている。では、なぜナダルの祖国でパデルがここまで発展したのか。
スペインメディア「El Periódico de Yecla」によれば、パデルが人気スポーツとなった背景には複数の要因がある。運動面では、コーディネーションや反射神経、筋力の向上、メンタルヘルスの改善に寄与する。また、パデルはダブルスでしか行われないため、強い社交性を生み出すスポーツでもある。
加えて、誰もが気軽に楽しめる、フレンドリーで親しみやすいスポーツだ。料金面でも、スペインは多くの新規参加者を惹きつけることに成功している。テニスと同様に、パデルも年齢やレベルを問わずコートを予約できるアプリが整備されており、手頃な料金でプレーできる。
マーケティング商品としてのパデル
バルセロナに住んでいるなら、仕事終わりにストレス発散のため、あるいは週末の気分転換として、1時間4〜8ユーロ程度でプレーできる。スペイン国内のほぼすべてのスポーツショップで、手頃な価格のパデル用品が揃い、国内各地にあるパデルコートの数も増え続けている(2022年時点で1万5000面以上とされる)。
パデルは、それ自体が強力なマーケティング商品でもある。2024年11月、ウイルソン・パデルのグローバル・ビジネス・ディレクター、イニャキ・カブレラは『レキップ』紙の取材にこう語っている。「スペインではパデルがあまりにも一般的なスポーツなので、スポーツ以外の多くのブランドも、ターゲット層にリーチする手段として注目しています。代表例がスペインの自動車ブランド、クプラです。彼らは多くの選手やトーナメントのスポンサーになっています」。
またパデルは、テニスに比べて競技のトップ選手との距離感が近く、そのイメージの良さも際立つ。「他のスポーツとは異なり、パデルの選手たちははるかに身近な存在です。人々もブランドも、そこを非常にポジティブに捉えています」とカブレラは続ける。
ナダル、アカデミーを通じたパデルのアンバサダー
2016年、ローラン・ギャロスで14回優勝したレジェンド、ラファエル・ナダルが『ラファ・ナダル・アカデミー』のプロジェクトを立ち上げた際、彼は大人なら誰でもレベルを問わず参加できるパデルプログラムも同時に開発した。
夏休みやクリスマス、イースター期間を含め、1面または2面のコートを使った1週間単位のトレーニングキャンプが用意されているほか、週末にグループレッスンを受けることも可能だ。世界各大陸で拠点を増やしているラファ・ナダル・アカデミーは、2028年にはブラジル・ポルト・ベロに南米初の複合施設をオープンし、このコンセプトをさらに拡大していく。

新アカデミーにはパデルコート8面を整備
この新拠点にはパデルコートが8面建設される予定だ。これにより、将来有望な若手プレーヤーがラファ・ナダル・アカデミーに参加しやすくなり、同アカデミーはパデルにおける「世界的な教育機関」としての存在感を強めていく。ナダルのようなスポーツアイコンが、その重要性をここまで強調していること自体、この競技が今後ますます大きな成功を収める可能性を物語っている。
ヨーロッパ、アジア、アフリカ、北米、そして間もなく南米にも複合施設を構えることになることを考えれば、パデルは世界のスポーツシーンにおいて、今後さらに大きな存在感を放つのは自然な流れだろう。
ラファ・ナダル・アカデミーの公式サイトには、明確な目標が掲げられている。「唯一無二の場所で、忘れられないパデル体験を提供すること」。有能なパーソナルコーチによる開発プログラムを選択することで、短期間で大きな上達を遂げることが可能だ。
スペインで乱立するプロトーナメント
スペインが国際的にパデルを支配していることは、ランキングの数字にも表れている。男子では世界トップ20のうち13人がスペイン人であり、女子に至ってはトップ20のうち16人がイベリア半島出身だ。国民的娯楽とまで自称されるパデルは、子どもから大人まで幅広く愛されている。その「正統性」は、プロレベルの大会運営にもしっかりと反映されている。
実際、2025年のPremier Padelツアーでは、バリャドリッド(6月)、マラガ(7月)、タラゴナ(7〜8月)、マドリード(8〜9月)、そしてシーズンの掉尾を飾るファイナルを主催するバルセロナ(12月8〜14日)と、スペイン国内で5つものビッグトーナメントが組まれている。
世界の先頭を走るスペイン
テニスにおけるATPファイナルやWTAファイナルと同様、バルセロナで行われるマスターズ大会には、男女とも年間ランキング上位8ペアだけが参加できる。世界でも最も権威ある大会の一部を主催し、多数の選手を世界ランキング上位に送り込んでいることからも、スペインがこの競技の「旗艦国家」であることは明らかだ。
カルラ・トゥリ―は、その理由の一端をこう説明する。「フランス人とスペイン人とでは、ペアを組んだときの『ガラスの扱い方』がまったく違うんです。スペイン人にとっては自然なことでも、フランスやイタリア、ポルトガルの多くの選手はテニス出身なので、かなり苦戦します」。
イノベーションとUTS――テニスはコミュニケーションを再発明できるか
パデルの台頭を示す数字は、日に日に説得力を増している。テレビ放送における露出では、依然としてテニスの方が圧倒的に上だが、そのテニスがこのままでは、パデルの伸長によって脅かされかねないと危惧されている。テニス界のトップ選手たちも、この問題を看過していない。
2024年のウィンブルドン開催中、ノバク・ジョコビッチは会見の場でパデルの台頭に言及した。グランドスラム24勝を誇るこのセルビアのレジェンドは、テニスにはイノベーションが欠けており、若い世代を惹きつけるためにあらゆる努力をすべきだと訴えたのだ。
「もっと工夫すべきだ」と語るジョコビッチ
当時ジョコビッチは、グランドスラム大会のフォーマット変更を提案していた。具体的には、第1週は3セットマッチで行い、準々決勝からは現行どおり5セット制に戻すという案だ。
より広く見れば、彼はテニスが自らを再発明しなければならないと考えている。さもなくば、パデルや、アメリカで非常に人気の高いテニス派生競技「ピックルボール」のような新興スポーツに、徐々にその座を奪われかねないというのだ。
「テニスがイノベーションを起こすことは不可欠だと思います。グランドスラム大会に関しては、若い観客層を惹きつける工夫をしなければなりません。F1がここ数年でマーケティングやスポーツとしての成長の面で成し遂げたことを見てください……。
私たちももっと工夫すべきです。統括団体(ATPとWTA)には敬意を払っていますし、グランドスラム大会自体は常にやっていけるでしょう。ただ、その下にあるATPとWTAは、この分野で改善しなければなりません。私たちは、歴史があり世界的に知られたスポーツに携わっているという幸運を持っているのですから」。

「成長の余地は大きい」
「PTPA(ジョコビッチとヴァセク・ポスピシルが設立した、テニス選手の権利保護団体)が2021年に出した統計によれば、テニスは視聴者数でサッカー、バスケットボールに次ぎ、クリケットと並んで世界で3番目か4番目に見られているスポーツだと言われています。
それなのに、人気をうまく活用できているスポーツとしては9番目か10番目に過ぎません。成長の余地は非常に大きい。組織として一歩引いてスポーツ全体を見直し、改善すべき点は山ほどあります」と、ジョコビッチは続けた。
「非常に憂慮すべき状況」
さらにジョコビッチは、テニスが競技としての信頼性を保つには、より多くのプロ選手が賞金だけで生活できるようになるべきだと考えている。
「テニスで生計を立てている人の数を増やす必要があります。プロツアーでシングルスとダブルスを合わせても、賞金だけで生活できている選手は400人ほどしかいない――メディアがこの事実を取り上げることはほとんどありません。
私にとって、これは非常に憂慮すべき状況です。グランドスラムの優勝者については、“これだけの賞金を手にした”といった金銭面ばかりが強調されますが、下部ツアーはどうでしょうか」。
「パデルコートの方が経済的に有利」
「世界中で何百万人もの子どもたちがテニスラケットを手にし、このスポーツを愛しています。しかし、特に私の祖国のように連盟の予算が限られている国では、テニスを誰にとっても身近で手の届くスポーツにできているとは言えません」と、テニス界の統括団体に苦言を呈した。
ジョコビッチにとって、テニスは他のスポーツとの競争にますますさらされており、特にパデルの絶え間ない進化に対応しなければならない。「ラケットスポーツの王様はテニスだというのは事実です。しかし今では、パデルも絶えず成長を続けています。プレーする人たちは、パデルをとても楽しんでいます。そしてクラブレベルでは、テニスは危機に直面しています。
この点で何も手を打たなければ、各国はすべてのテニスコートをパデルコートやピックルボールコートに改装してしまうでしょう。その方が経済的に有利だからです。1面のテニスコートを潰せば、そこに3面のパデルコートを造ることができます。計算してみれば、クラブにとってどちらが収益性が高いかは明らかです」。
UTS――変化の「最初の兆し」
とはいえ、テニスもここ数年で一種の「革命」を経験している。2020年、フランス人コーチのパトリック・ムラトグルーは「UTSツアー」の創設を主導した。若い世代にリーチすることを目的としたエキシビション形式の新ツアーで、1クォーター7分、サーブは1本のみ(ATPツアーでは2本)、試合の流れを変えるスペシャルカードなど、試合のテンポを高めるための数々の新ルールが採用されている。
このように、目に見える変化を求める議論はすでに数年続いている。実際、男子トップ10の選手たちはUTSのイベントにたびたび参加している。しかし、それだけでテニス界に必要とされる抜本的な変革を引き起こすには、まだ不十分かもしれない。

ロナウド、ブラジルでのUTS普及を目指す
UTSツアーは、公式サイト上で自らを「明日のテニス」と位置づけている。「UTSツアーは、現代の世代のニーズに応えるために生まれた、テニスの革命的な再発明です。
タイムロスの削減、観客とのより密接なインタラクション、“サドンデスポイント”や試合中の生演奏といった革新的な要素を導入することで、UTSは文字通りスポーツとエンターテインメントを融合させた存在なのです」。
セリーナ・ウィリアムズ、マイク・タイソン、そして元ブラジル代表サッカー選手のロナウドといったスポーツレジェンドたちも、このフォーマットを支持している。大のテニス好きとして知られるロナウドは、自国ブラジルでUTSを普及させたいという意向を示している。
テニスの未来はパデルに脅かされているのか?
世界で最も人気の高いラケットスポーツであるテニスは、今なお何百万人ものファンを惹きつけている。しかし、ノバク・ジョコビッチが警鐘を鳴らしているように、パデルやピックルボールの台頭には注意を払う必要がある。
とりわけスペインやラテンアメリカで爆発的な人気を誇るパデルは、世界各地でその勢力を拡大し続けている。経済的に手頃で、年齢やレベルを問わず誰もが楽しめるスポーツとして、世界中に輸出され、その人気は今なお急成長中だ。
とはいえ、メディア露出やスター選手の知名度という点では、テニスはいまだパデルより一歩先を行っている。ただしテニスは、その信頼性を高め、観る側に「マンネリ感」を抱かせないようにするためにも、内部のさまざまな問題を再検討しなければならない。
パデルはテニスを補完する存在であって、敵ではない
しかしブリュッセルにあるテニス&パデルクラブ「ロイヤル・レオポルド・クラブ」のディレクター、ホセ・ビエスカは、パデルはテニスの競合ではなく補完的な存在だと考えている。両者には多くの共通点があり、そのことがむしろテニスにとってプラスに働くと見るからだ。「ここ4〜5年、テニスの会員数は全体として横ばいですが、パデルの会員は毎年はっきりと増えています。
両方のスポーツが並行して発展しているものの、互いに競合しているとは言えません。テニスにとって、パデルはむしろチャンスです。どちらもラケットスポーツですし、ルールもかなり似ています。
ですから、人がテニスからパデルへ移行したいと思ったときも、比較的スムーズに移れるのです」と、ビエスカは2025年4月にRTBFの取材に対して語っている。「パデルでは、40歳以上の人たちや、しばらくスポーツから遠ざかっていた人たちが特に多い。若者の間での浸透は、まだそれほど進んでいないのが実情です」とも分析している。
元フランス人プロテニス選手のアルノー・クレマンも、パデルはテニスにとって補完的なものであり、長期的な脅威ではないと強調する。「テニスをやめてパデルに移る人たちは、いずれにせよテニスをやめていたはずだと、私は常々思っていました。だったら、別のラケットスポーツでも続けてくれた方がいい」と、元ATPランキング10位のクレマンは『France Info』に語っている。
イノベーションという点でパデルを手本に
それでもビエスカは、パデルが若者の心を捉えるにはまだ課題が残る一方で、クラブ側はその状況を変えるための戦略を立てており、テニスもそれに向き合わなければならないと認める。「ある種の意味で、私たちも自らを再発明する必要があります。設備を近代化する、ということでもあります。
また、これまでとは違ったイベントや仕掛けを作らなければなりません。その点では、パデルをお手本にすべきでしょう。最終的には同じラケットスポーツですし、クラブに人を呼び込む役割を果たしてくれます。親がパデルを楽しめば、いずれ子どもをテニスに通わせるかもしれません」と、ビエスカは締めくくる。
要するに、少なくとも現時点では、パデルをテニスに対する中長期的な脅威と捉えるべきではない。テニスの「ライバル」として敵視するどころか、むしろ逆に、心強いパートナーとして見るべきなのだ。
ここ数年、パデルの成長スピードは目覚ましいが、それは同時に、テニスが自らを再発明する機会にもなり得る。とりわけコミュニケーションの在り方を見直し、競技としての信頼性を高めるという意味で、大きなヒントを与えてくれる。
ノバク・ジョコビッチのようなレジェンドが発する警告にもかかわらず、テニスは、パデルという「若きいとこ」と共存し、さらには協力する道を見つけられる限り、すぐに危機に陥るとは考えにくい。
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